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セミナー「Raising the ceiling or the floor?」



2019年9月17日、聖心女子大学グローバル共生研究所にて国際開発学会の「社会連携委員会」と「開発ビジネス研究部会」共催による「パームオイルの持続可能なサプライチェーン」セミナーが開催され、当研究所代表理事の吉田が発表を行いました。


本セミナーは、パーム油の主要な認証基準であるRSPO(Roundtable for Sustainable Palm Oil)*とマレーシア・インドネシア政府が独自に設定した認証基準(MSPO/ISPO)とをどうとらえるのか、企業、環境保護、社会開発の立場から意見交換することを目的に開催されました。

キーノートスピーカーはRSPOの初代事務局長のテオ・チェンハイ氏。現在は、MSPOの策定にもかかわっています。チェンハイ氏からは「アジア域内のパーム油サプライチェーンの課題」について講演がなされました。主な論点は以下の通りです。

  • 地球全体で考えると他の植物油にくらべてパーム油の土地生産性が最も高く、パーム油をやめて他の油に切り替えると、より多くの土地が必要になる

  • RSPO認証を受けたパーム油は一般のパーム油と比べて、品質面での違いはなく、価格だけが高いため、生産量の半分しか消費されていない。残りは付加価値のつかない一般的な油と同じ価格で消費されている。

  • すべてのパーム油を持続可能な形で生産するためには、RSPOを補完する仕組みが必要であり、それゆえマレーシア・インドネシアの両政府は小規模農家を参加させやすいMSPO・ISPOを推進している。

チェンハイ氏から提起された「私たちにできること」のキーワードは「Raising the ceiling or the floor?」。

「Raising the ceiling(天井をあげる)」つまり、RSPO認証制度の精度を高め厳密に監視することでより持続性の高い(必然的に価格も高い)パーム油を求めるのか。それとも「Raising the floor(底上げする)」つまり、RSPO認証をほとんど取得できていない小規模農家の生産性や持続性を高めることで全体のすそ野を広げる方向に行くのか。

答えは一つではありませが、パーム油をめぐるサプライチェーンには様々な課題があり、より良い答えを出すためには、環境・社会・ビジネスの視点に加え、経済的に脆弱な生産者や消費者の視点を取り入れ、より広い視野で議論を続けていくことがスタートではないかと思いました。

その後、パーム油を使う企業の視点として不二製油の山田氏から、不二製油のパーム油サステナブル調達のとりくみや、社会からの評価などが発表されました。次に環境NGOの視点としてレインフォレスト・アクション・ネットワークの川上氏からは、RSPO、MSPO、ISPO認証制度の課題や、オリンピック・パラリンピック調達基準の課題が報告されました。認証されたパーム油といっても持続性が真に担保されているわけではないという現状が報告されました。

最後に、当研究所代表理事の吉田から、インドネシア小規模農家の視点から、生産現場での農家の現状・意識などを報告しました。政府の移住政策で提供された小規模の農地で油ヤシを生産するようになって20年近くになる農家、カカオを生産しているけれども近年は油ヤシの方が儲かるので切り替えを考える農家など、彼らが直接的に森林伐採や強制労働に加担しているわけではないのに、外部からの持ち込まれた環境保全の基準により認証から排除されてしまってよいのか、と問題提起をしました。

私たちジゾ研は、「持続可能性」には多面的な顔があり、生物多様性や環境、強制労働・児童労働等の社会的問題、パーム油の場合は認証制度の精度や強制力など様々な側面から議論が必要ですが、より多くの人々が「持続可能性」に取り組むためには、現場で生産している人々・一般消費者の視点も取り入れていく必要があると考えています。

その意味でも、チェンハイ氏の提唱する「Raising the ceiling or the floor?(天井をあげるか、底をあげるか)」について、より多くの農民が持続可能性に取組み、より多くの消費者が持続可能性の高い商品を選ぶようになるような、きっかけや議論の場を作っていけたらと改めて考えさせられるセミナーになりました。


*Roundtable on Sustainable Palm Oil(RSPO)持続可能なパーム油の円卓会議

パーム油による環境・社会問題への注目に応え、世界自然保護基金(WWF)を含む関係団体が中心となり2004年に設立された国際的な非営利組織。RSPOの目的は、持続可能なパーム油の生産と利用の促進であり、そのために認証制度を策定している。

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